「解明:デジタル教科書の現状と展望」というテーマで 2014年 9月 27日(土) 午後に内田洋行東京ユビキタス協創広場 CANVAS(東京・八丁堀)にて企画委員会ワークショップが行われた。特に、現在開発や普及が進んでいるタブレット端末等で使う学習者用デジタル教科書を話題の中心におきながら進められた。冒頭、中川から趣旨説明で当面検討すべきこととして、
①学習者用デジタル教科書は指導者用デジタル教科書とどうちがうのか、
②どのような導入パターンで使うのか、
③授業支援ツールや授業記録データなど、ICT 環境はどこまで活用可能か、
④デジタル教科書の標準化は使いやすさを追究できるのか、
⑤家庭学習との連携をどう視野に入れるか、をあげた。
その後、立場のちがう三氏の講演があった。
白水始氏は、「指導と評価のハブとしてのデジタル教科書~研究者の立場から~」というテーマで講演した。ハブに教科書がなるということは、「クラスの中で教科書を指導のための教材として使うと同時に、子どもが回答を書き込むことで評価のデータとしても使えること」「教室や学校を超えて、その指導と評価の結果を共有するために使えることであること」の2つであり、「それが指導場面をより評価の場面として機能させ、評価場面を指導場面として機能させることを可能になる」とし、指導と評価の一体化を進めることになることを示した。また、協調的な学習でも、児童生徒が少しずつ違うことを並列的に学ぶ授業と、同じことを順列的に学ぶ授業とで、効果にどのような違いがあるのかについて報告があった。
片山敏郎氏は、「デジタル教科書と情報リテラシー~実践者の立場から~」というテーマで講演した。今後目指す学力との関係の中で、学習者用デジタル教科書と育成すべき「資質・能力の関係」を考えていく必要があることを主張した。新潟大学教育学部附属新潟小学校では、「附属新潟式情報リテラシー」という独自の能力を定義付けて研究を進めていて、その位置付けと研究の進捗状況について、これから必要と思われる能力育成と関係付けて説明があった。特に、本校では、教科等を横断する汎用的なスキルを、「考えるすべ」という比較・系列化・分類・関係付けという4つの「思考の方法」に落とし込んでいることが報告された。
森下耕治氏は、「国語デジタル教科書のこれまでとこれから~開発者の立場から~」というテーマで講演した。まず、指導者用デジタル教科書が普及した要因として、「スタイルを変えずにわかりやすい授業を展開することができること」「学習意欲,集中力,指示理解などが向上すること」「電子黒板との併用による効果」「学力向上への期待」をあげた。また、「学びのイノベーション事業 実証研究報告書(文部科学省)」で指摘されている内容をあげながら、教科書に加えノートの機能の重要性を示唆していたことを指摘した。児童生徒に対し、学習内容をインプットする装置だけではなく、理解したことや考えたことを表現(アウトプット)したものを記録できる装置として期待されている、とした。さらに、学習者用デジタル教科書は児童生徒が操作して使う教材であることを指摘した。その教材がさまざまなニーズに対応するためには、それぞれの児童生徒がデジタル教科書をカスタマイズして「私の教科書」を作ることが重要とした。
最後に、堀田博史氏のコーディネートにより「再考:デジタル教科書の現状と展望」というテーマでパネルディスカションが行われた。講演された三氏に加え、前田康裕氏は、「指導者用デジタル教科書に関する現場の使用状況と教職員研修の実際」というテーマで、「指導者用デジタル教科書の使用頻度・利点」「ハードウエア環境の整備とデジタル教科書の活用」「研修の組み立て方」などについて提案があった。堀田氏から、今後のデジタル教科書に期待することへと話題がふられ、年次大会へのつながりを示した。
本テーマ、特に学習者用デジタル教科書に関しては、多くの学校での活用はこれからであるため、今後に向けての多くの示唆にとんだワークショップとなった。
(文責:放送大学 中川一史)