2015年度 第1回研究会のご報告
2015 年度第1 回研究会が、東北学院大学泉キャンパスにある教育工学実習室にて2015 年6 月13 日(土)に開催されました。教育メディア学会会員および宮城県の研究グループである「情報活用型授業を深める会」の会員、その他の大学教員や現職教員、学生の合計35 名が参加し、10 件の研究発表が行われました。
今回の研究会のテーマは「情報活用能力の育成とメディア」でした。このテーマを設定したのは、文部科学省が実施した「情報活用能力調査」の結果が公表され、情報活用能力の育成における実態が明らかになってきたことが背景にあります。また、本学会では年次大会において情報活用能力及びメディアリテラシーに関する研究討議の蓄積があり、そこでの発表を発展させた報告もありました。
10件のうち、前半5件が開催テーマとの関連性の高い報告でした。「アクション・リサーチによるMCカリキュラムの改善」では、京都教育大学附属桃山小学校が研究開発学校として実践してきた「メディア・コミュニケーション科」におけるカリキュラムの開発プロセスとそこでの課題解決の状況の分析に関する報告がありました。「児童・生徒の情報活用に着目した授業の開発」では、「情報活用型授業を深める会」に所属する仙台市教育センター指導主事より、情報活用の実践力の育成に着目した授業開発の取り組みが報告されました。「ユネスコ・メディア情報リテラシー教育-日本における政策と実践の可能性-」では、国際的なメディア・情報リテラシー教育の動向とともに、日本でのESD 教育における実践可能性が提案されました。「メディア接触がメディア認知に及ぼす影響」では、大学生を対象にメディア利用とその認知に関する調査結果が報告されました。その結果、日常のメディア接触がメディアの特性理解に及ぼす影響が示唆されました。「ラーニングコモンズにおける学修モデルの開発」では、大学における学生の主体的な学修を支援する環境であるラーニングコモンズを対象に、そこで実施される学修を情報の収集と発信の両面からモデル化した試みが報告されました。
後半の5件は、 ICT やメディアの活用に関する様々な研究成果が報告されました。「児童1人1台タブレット端末環境における授業実践や家庭学習による保護者への意識調査」では、1人1台のタブレットを導入して児童に家庭への持ち帰りを許可した授業実践における、保護者のタブレット端末に対する捉え方に関する調査結果が報告されました。「学びの自律を支援する自主学習共有システムの評価」では、小学生の家庭学習の状況を共有することで自主学習を促す、タブレットを活用したシステムの運用や操作面の評価についての報告がありました。「映像を活用した学習指導法の協議環境試案と論点整理-注目場面のずれを題材にして-」では、授業の動画(番組)を活用して、現職教員や教職経験の無い学生が、授業内で注目する場面の差をもとに議論を行う授業研究の手法が紹介されました。「SQS による出席票とアンケート調査を両立させるワークフローの提案」では、マークシートの作成読み取りシステムのSQS を用いて出席とアンケートを効率的にとるための仕組みが提案されました。「eラーニングによる入学前教育の実践」は、入学前教育において学習計画を立てさせ、進捗報告を相互評価で行うeラーニングの取り組みが報告されました。
全体を通して、テーマであったメディア・リテラシーや情報活用能力、さらには自己調整学習など、主体的で自律的な学習者となるために必要な能力やそれを促す学習環境について、多様な視点からの発表が多かったように思います。質疑応答でも活発な議論がなされ、それぞれの発表が深まりをみせ、とても充実した時間となりました。本研究会にご参加いただきました皆様にあらためてお礼を申し上げます。
文責:稲垣忠(東北学院大学)・市川尚(岩手県立大学)
テーマ「情報活用能力の育成とメディア/一般」
研究委員会 国内研究会担当 委員長 浅井和行,本企画担当 稲垣忠・市川尚
平成27年3月に文部科学省から「情報活用能力調査」の結果が報告された。同報告では、子どもたちが目的に応じて必要な情報を見つけ出すことや、受け手の状況に応じて発信の仕方を工夫することなどに課題がみられるとされた。
情報活用能力について本学会では、平成26年の年次大会において課題研究「情報活用能力と評価」を開催したところであり、平成27年の年次大会においても、メディアリテラシーとともにその育成について取り上げることを予定している。継続的な議論の場として本研究会を位置づけるとともに、研究会では学会員以外からの発表も可能であるため、より多様な立場からの提案を期待する。
情報活用能力の育成に資する授業実践、教材、カリキュラム開発、学習評価の方法といった実証的な研究、メディアリテラシー、情報リテラシー、ICTリテラシー、21世紀型スキル等の関連領域との理論的検討など、情報活用能力とメディアに関わる幅広い研究発表を募集する。その他、本学会がテーマとする内容に関する研究についても発表可能である。
なお、当日は宮城県内で情報活用能力の育成をテーマにした現場教員を中心とする研究サークル「情報活用型授業を深める会」に所属する教員、研究者、学生も参加する。
■ 日時 2015年6月13日(土曜日)午後1時から4時(予定)
■ 場所 東北学院大学 泉キャンパス 4号館 教育工学実習室
住所:仙台市泉区天神沢2-1-1
http://www.tohoku-gakuin.ac.jp/campusmap/izumi.html
仙台駅~泉中央駅(仙台地下鉄 15分)
泉中央駅~東北学院大学(宮城交通バス 15分)
■ 主催 日本教育メディア学会
■ 参加費 資料代1,000円(「情報活用型授業を深める会」会員で資料を希望しない場合は無料)
■ 定員 40名(定員に達し次第、締め切ります)
■ プログラム:
・研究発表 前半 13:00~14:40
1. アクション・リサーチによるMCカリキュラムの改善
浅井和行(京都教育大学)
2. 児童・生徒の情報活用に着目した授業の開発
髙橋清(仙台市教育センター),稲垣忠(東北学院大学)
3. ユネスコ・メディア情報リテラシー教育-日本における政策と実践の可能性-
坂本旬(法政大学)
4. メディア接触がメディア認知に及ぼす影響
後藤康志(新潟大学)
5. ラーニングコモンズにおける学修モデルの開発
稲垣忠(東北学院大学)
・研究発表 後半 14:50~16:30
6. 児童1人1台タブレット端末環境における授業実践や家庭学習による保護者への意識調査
佐藤和紀(東京都北区立豊川小学校/東北大学大学院),中橋雄(武蔵大学)
7. 学びの自律を支援する自主学習共有システムの評価
住谷徹(ベネッセ教育総合研究所),稲垣忠(東北学院大学),
菊池秀文(世田谷区立砧南小学校),中垣眞紀(ベネッセ教育総合研究所),
土屋理恵子(ベネッセ教育総合研究所),久野雅樹(電気通信大学)
8. 映像を活用した学習指導法の協議環境試案と論点整理-注目場面のずれを題材にして-
山口好和(北海道教育大学)
9. SQSによる出席票とアンケート調査を両立させるワークフローの提案
眞壁豊(東北文教大学)
10.eラーニングによる入学前教育の実践
市川尚(岩手県立大学),高木正則(岩手県立大学)